羊毛フェルトのリアルなヨークシャーテリア、十二支、トトロ&ピカチュウ!Terry the Dog (テリー・ザ・ドッグ)のハンドメイド作品集。
答えてることは本当のことで、ほぼノンフィクションです。奇妙な羊毛フェルト作家の実態は?!
2025年5月21日 水曜日
苦瓜通信:Terry The Dogの物語 羊毛フェルト作家のインタビュー
「すみません。インタビューのために、貴重な“お時間”いただきまして。」
「いえ、こちらこそ。よろしくお願いします。」
「では早速、始めさせていただきます。」
「はい。ああ、それでね、見ての通り作業中で、大変失礼を承知のうえでのお願いなんだけど、作業しながら答えていく、とかはダメかな?」
「ええ、まあ、こちらとしては、お答えさえいただければ、一向に差し支えはありませんので。どうぞお続けになりながらお聞きください。」
「ごめんね、変な人で。何か落ち着かないし。あと一旦中断するとすぐにまた、ああ何もできない、全てにおいて自分は人並み未満だ、本当に自分はつまらないニンゲンだ、ってなっちゃって、放置状態になるんだよね。今珍しくいろいろこなせそうな気分で作ってたもので。助かります。」
「いえ、本当にお一人で黙々とやってらっしゃるんですものね。では改めてお願いします。」
「お願いします。」
「まず、皆さまからお預かりしている質問が『どうして羊毛細工を始めたんでしょうか?きっかけは何だったのでしょうか?』というものなんですが?」
「ああ、それね。先輩にも訊かれる。しかも同じ質問を何度も会うたびにする先輩がいてね。気遣って初めて訊かれたかのように答えるようにしてるんだけど。同じ人だよ。複数の人から同じ質問なら仕方ないけど。なんか作業してるときとか、作ったものしみじみ見てるときとかに、こっち見て『きっかけは何だったの?不思議でしょうがないんだけど』って、こっちが不思議でしょうがないよ、それ何度目だよって思っちゃうって、ごめんごめん。話逸れちゃったね。」
「いえ構いませんよ。」
「まあ、きっかけは洋服の修繕技術として使えないかなあ、って考えたことです。」
「え、洋服の修繕ですか?」
「ええ。私は結構ドジっ子属性がありまして。ああ、見てわかるかもしれませんが。」
「いえいえ。全くそんな感じにはお見受けしかねますが。」
「すみません、お気遣いいただいて。とにかく『あ、やばい』ってことがよくあるんです。職場の机とかで、角が尖った状態剥き出しのところに、つまづいて服に穴開けちゃったりするんです。市販の、裏からアイロンあててやるやつで、補修できたりするときはいいんですが、もうかなり派手に破いたりもありまして。そういうときは、補修のお店にお願いしたりするんですけど。お店の人も、いやあ、かなり厳しいねえ、って言われることも少なからずって感じなんです。自分が裁縫でやろうとしても、生地と同じ色の糸を用意して、(補修したい部分に)縦糸として縫い付けてから、横糸を通していき、最終的にそこ(補修箇所)だけで布を紡ぐ感じでしょ。不器用な自分には、とてもとても(できない)。そこで、どうにかもう少し簡単に布を補修する術がないかと探しているときに見つけたのが、羊毛フェルトなんです。」
「へえ~。」
「これなら針で糸を通していくのではなく、ひたすら生地に向けて針を刺すだけなので、自分にもできそうじゃないかと。」
「なるほど。」
「それで最初、綿性の破れた生地に向かって、針を刺していったんです。そしたら少しくっつき始めて。あ、“綿の生地だけに”じゃないですよ。そこに似たような色の黒い羊毛と、針も専用のものをです。そうそう、針って普通の裁縫針と違うんです。普通、針の先端はツルツルで、まっすぐというか表面は平坦でしょ?でも羊毛フェルト用って、先がギザギザになってるんです。見てみます?ほら。」
「失礼します。あ、ああ~、なるほど。こんなふうになってるんですね!」
「そうなんです。つまりヒトの毛も絡まったりすると、固まってしまったりするように、羊毛もこのギザギザで刺しながら、たくさん絡ませて固めていくって論法なんです。」
「なるほど、なるほど。」
「それで最初は、少しずつ元の生地と微妙にですけど、くっつき始めて、『やった!行ける』って思ったのも束の間。すぐ解けるんです。何度やっても失敗でした。理論的には綿だって行けるはず、と思ったんですが、やっぱり綿は厳しいかもと思い、羊毛、つまりはウール素材で試そうと思ったんです。けどなかなか決断できない。ウールってなると、スーツとか、セーターで。失敗したらどうしようって。さっきの綿のは、たまたま安モノの丁度破けたものがあって試したことだけど。ウールかあ、って。で古いセーターで微妙に解けた箇所のあるものがあったんですが、(セーターと同じ羊毛の)色がない。黒しか取り急ぎ用意してなかったんで、さすがにここに黒が浮き出るのはなあ、ってなって。そうだ、そもそもこれ(羊毛フェルト)をきちんと習得して、それから挑戦しよう、と考えて簡単に始められそうな、ハマナカさんのネコに挑戦してみたんです。そのときのが、これです。」
「ああ、カワイイですね。」
「これは写真見て、あとキットだったんで手順書も入ってて、見ながらやってみました。まあうまくいったんじゃないか、と思いましたね。で、面白いと考えて、適当にウサギとか作ったりしてみて。こちらは大分不細工になってしまったんですが、まあ何とかできた。いずれも掌サイズなので、もう少しだけ大きいのを作ってみたいと思い、またハマナカさんのキットでトイプードルを挑戦して。他の方の出来上がりの写真と比較しても、そんなに見劣りはしないかなって思いました。それが、こっちね。」
「はい、はい。」
「で、このとき、ふと私の中である野望が芽生えたんです。」
「ふふ、野望、ですか?」
「ええ。それが『かつての飼い犬を甦らせたい』というものです。亡くなった自分のイヌにもう一度会ってみたい。ずっと自分の中にあった願望が、これで実現できるのでは?!って考え、試行錯誤を繰り返し生み出したのが、このテリーなんです。」
「そうだったんですね。お亡くなりになった、ご自分のワンちゃんなんですね、テリーさんは。」
「そうです。写真も殆ど残っていない。うちは写真とかいちいち撮ってなかったので、自分たちの姿のものですら、ほぼない。だけどずっと一緒にいて、散歩して、洗ってあげて、アイス食べてたら横取りされて‥」
「アイスを横取りするんですか?」
「ええ、私が座って食べているとき絶対(アイスをイヌに)あげないのを知ってて、膝のところにのってきて狙ってるんです。そして私が食べようとした瞬間に『パク』って、アイスを奪って美味しそうにシャリシャリ言わせて、食べてるんです。」
「そ、そうなんですね。へ~。」
「ごめんなさい。また話が逸れましたね。とにかくそのテリー、ああイヌの名前だったんです、言いましたっけ?、で、テリーを思い出しながら、頭の大きさ、抱っこしたときの感じ、って作っていったことで、今に至ります。またこのときに、先程お話したハマナカさんのトイプードルでは、首のパーツや足にハリガネを仕込んだりするんですよ。でも私はなんとなく、ハリガネを使うのがイヤで。そもそも今後作ることを考えると仕入れるのが面倒で。羊毛だけで作ろうって決めたんです。それは今も同じです。ただ目だけは、プラスチックを使ってます。これはやっぱり光沢が出せない。何かニスとか塗ってそういう感じにできるかもしれませんが。意外とただのプラスチックの丸でも、きちんとした目になってるでしょう?」
「そうですね。」
「裁縫のお店に行くと、生地や糸と同様にドール用の目が売っているので、入手はしやすい。多分こういうところにハリガネもあるのかもしれないけど。とにかくイヤ。まあ自分のコレクションでテディベアがいっぱいありますんで、彼らにはそういう部品が使われているのも重々承知しているんですが。」
「そうなんですか?」
「あれは可動域があるでしょ?あ、ごめんなさい。厳密にはテディベアって定義ないんで、クマのぬいぐるみならなんでもテディベアって呼んでもいいはずなんですけど、この場合はシュタイフを中心としたメリーソートとか、ハーマンとかのものや、個人作家さんたちが作成した手足や頭を動かせるものを、恐らくは一般的にテディベアって呼ぶんじゃないかなって思うんで。各パーツを胴体に接続する可動域にそういうの(ハリガネなど)が使われてるんです。人型人形ならなお使ってるんじゃないかな?だからこういう人形に使うのが異端とか、おかしいってこともないんでしょうけど、私には違和感があるんで、せっかくだから羊毛だけでできてます、の方がしっくりくるんです。感覚の問題だと思います。でもそうするとお判りになると思いますが、いくら羊毛が固くなるといっても、自立させるには耐久性が乏しい。」
「ご自身では、その問題をどう解決していらっしゃるんでしょうか?確かにみんな自立してますよね?」
「かなり微妙なバランスのもありますが、骨に相当するものを自分なりに作って、そこに肉付けしながら、強度を高めています。あとは小さいのだと苦労します。私は小さい球体を作って数珠状に繋いで、周りを覆っていくって感じで、このハシビロコウとかは仕上げました。完全自立というには相当不安定ですが。ほかの方々ってどうしてらっしゃるんでしょうね?私は全部我流で。(他の方が)作ってるとこ見たことないんですよ。動画すら。他人に教わったわけでもないし。」
「そうなんですね。てっきり以前から趣味でずっとやっていて、教室とかに通われていたのかと思いました。」
「いえ我流です。それにまだ1年に満たないですし、始めてから。」
「ええっ!本当ですか?」
「ええ。去年(2024年)の6月~7月にかけての時期に、さっき申し上げたような経緯で始めました。」
「凄いですね。それでこれだけのもの作れるんですか?」
「結局ほかの人のことが判らないので、どうなんですかね?少なくとも、私とは相性が良かったんだと思います。実は本とかも買うには買ったんです。読んで勉強したら?って感じのことを言われまして。でも私は昔から参考書とか買うだけ買って、それで勉強した気になって満足してしまうようなダメな人なので。その本も、コレなんです。で最終的には書いてある通りにできないんです。😰私ダメなんです。不器用過ぎて。」
「いやあ、不器用な人は、こんなに作れないですよ。」
「😖でも不器用なんです。何してもダメなんです。」
「いや大丈夫ですよ。急にそんなに落ち込まないでください。」
「😖…まあ、結論としては、針で刺す。同じ方向に抜く。コレを繰り返して固まる。これだけ解れば充分と思い、あとは自由にやってます。針も使い分けたりしてませんし。」
「いや、それはそれで凄いんじゃないですか?」
「そうですかね?私にとって羊毛フェルトは、裁縫よりは粘土に近いんです。気に入らなければ付け足すし、あるいは千切ってしまう。それで自由に変えていけるので。生地を切って、縫ってる最中に大きさを変更とかは難しいでしょ?でも羊毛(フェルト)ならそれができるんです!」
「なるほど。ありがとうございます。少しお元気も取り戻されて良かったです。急に落ち込まれたときは、正直ビックリしました。冒頭でご自分でおっしゃってはいましたけど。あんなにテンション下がってしょんぼりなさるとは。」
「すみません、ご迷惑をおかけして。😨私本当にダメ…」
「ああああ、大丈夫です謝らないください。ああ、針が!危ないです。しまいましょう、とりあえず。おケガはないですか?大丈夫ですね。こちらがお時間いただいてお話をお聞かせいただいているんですから!貴重なお話がお聞きできて良かったです。ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございます。本当にこんなので大丈夫でした?」
「ええ!大丈夫です!」
「参考になりました?」
「………いや。“参考”には、なりませんかね。」
「早く帰ってください…」
(文:御騒河瀬 喰)